一般社団法人 グローカル政策研究所

阿部孝則の『寡黙な麻雀王者』

第31回連載

この頃の私は短期決戦のタイトル戦ではありますが優勝4回とかなりの好成績を収めていました。
そして本馬場であるリーグ戦の令昭位戦も第7期で2回目の令昭位戴冠を果たした後も第9期(2017年)第10期(2018年)第12期(2020年)と第14期(2022年)で決定戦に進出していました。
もちろん細かい内容を語り出せばキリはありませんし反省点や自分自身に対する不満は山ほどあります。
しかしながらこれだけ決定戦に進出していることにはまずまずの結果だと思ってある程度満足はしています。
ですが肝心の決定戦では優勝争いに絡むような闘いが出来ておらずに非常に不満の残る対局が多くなっていました。

令昭位戦A1リーグはRMU公式Aルールにてまず8節ないし9節(半荘36回前後)を総当たりのリーグ戦形式で行います。
節数はその年のA1リーグの人数で若干変わることがあります。
またRMU公式Aルールは一発裏ドラカンドラあり、30,000点待ち30,000点返し、順位点は1位+15、2位+5、3位△5、4位△15と比較的オーソドックスな競技ルールとなっています。
その後成績上位4名でそれまでのポイントを半分持ち越して令昭位決定戦を3節(半荘12回)打ちます。
こうして最終的にその年の令昭位が決定するわけです。
ですからまず決定戦に進出できる4人に残るための闘いになるわけですが、それまでのポイントを半分持ち越しとするため誰か1人に大量リードを許してしまうと決定戦でかなり有利に試合を進められてしまうことになります。
ですからなるべく誰か1人を大勝ちさせないように闘うことも自分が優勝するためには重要なポイントとなってきます。

私が負けた時のことで特に覚えているので2020年の第12期令昭位戦があります。
この年は最初から河野さんが絶好調の一年でした。
河野さんのような実績もある強い打ち手が調子が良いとなると手の付けようがなくなります。
先行すればそのまま楽々と逃げ切れるような展開にも恵まれ、仮に大きく放銃したとしてもすぐに回復し中々ラスを引かせることが出来ません。
今回は流石にラスだろうという展開になってもオーラスに跳満や倍満の手が入りラス抜けどころか2着まで浮上してしまうというような光景をどれだけ見せられたことでしょう。
危うい状況というものを一つもつくらずに決定戦を前に河野さんは300ポイントオーバーのプラスを叩き出していました。
これはRMUのAルールのような順位点の小さなルールでは尋常な数字ではありません。
そして半分持ち越しの150ポイントを持って決定戦に乗り込んできます。
私も最後まで粘り強く打った結果、少しのプラスポイントを持って決定戦の最後の椅子に滑り込みます。
しかし河野さんをこれだけ調子づかせてしまったのは少なからず私にも責任があります。
あの日こうしていたら、あの時この選択をしていたらという話は麻雀である以上、またそれを打つのが私達人間である以上は仕方のないことなのかも知れません。
ですがもう少し上手く打つことは出来たはずです。
過程がもちろん大事なのは麻雀でも同じことです。
が、それ以上に勝負の世界では結果が大事だと言えます。
内容の伴わない勝ちには意味がないと言う人もいます。
しかし内容が良くても結果が伴わなければそれはマスターベーションと同じです。
そして第12期令昭位決定戦は言うまでもなく河野さんの圧勝で幕を閉じます。
私はなす術もなく4位に沈んでいます。
敗因はいくつも考えられそれは自分自身が一番よくわかっています。
簡単に言えば総合力の差が出たということだと思います。

そして翌年2021年の第13期令昭位戦。
この年もリーグ序盤から河野さんが好調をキープしていました。
毎節のように着実にプラスを重ねていました。
そしてそれは第3節に起こりました。
初戦で四暗刻の役満を決めた河野さんは特大のトップをとります。
私はその煽りで大きく沈んでしまいます。
そして少しの焦りがあったのとおそらく動揺していたんだと思います。
次の半荘で少し難しい選択のある手牌で私は正着を打てずアガリを逃してしまいます。
その直後『ツモ!』の発声と共に開かれた河野さんの手牌は『!!!!!』同卓者の全員が唖然となるような、なんと本日2度目の四暗刻でした。
私も公式対局で同じ人に同じ役満をツモられたことは記憶にありません。
しかしこの2回目の四暗刻をツモらせてしまった戦犯は間違いなくこの私です。
この時ばかりは自分自身の心の弱さに対して本当に嫌気がさしました。
河野さんはこの日軽く100ポイントオーバーのプラスを叩き出し私は大きくマイナスしてしまいます。
私はこの序盤戦のマイナスを最後まで立て直すことが出来ず決定戦進出はならず敗退しています。
そして河野さんは勢いそのままに第13期令昭位決定戦に進出し令昭位戦では初となる連覇の偉業を達成しています。
一方の私は去年と同じような失態を繰り返しまるで成長していません。
こんなことではどう転んでも勝てるはずがありません。

そしてこの前後あたりからRMUに少し変化が見られるようになります。
RMUは創設から10年以上の歳月が経っているとはいえまだ他団体に比べて後進の団体です。
団体運営やシステムなどは常に手探りと言っても過言ではありません。
良いと思われるものは積極的に採用し悪いものは改善していかなくてはいけません。
令昭位戦のシステムもこれまで何度となく議論されてきました。
そして下のリーグからA1リーグにもう少しだけ昇級しやすいシステムに改善していくことに決定されます。
これによりこの年は一気に4名の昇級者が生まれます。
その4名の中にはRMU初となる女流A1リーガーも誕生します。
こうしてRMUのA1リーグも在籍が10名を超えたばかりでなく20代30代の若い世代がようやく入ってくることになります。
実力差があまりにも開きすぎであれば話は変わってきますが、やはり若いときからプレッシャーのかかる舞台で強い人達と打つことは若手にとって相当な財産になります。
この先第2、第3の松ヶ瀬さんのような若手がRMUから生まれるのかも知れません。
もちろん私もまだまだ負けたままではいられないと強く自分に言い聞かせるのでした。

第32回連載へ続く...

COLUMN

阿部孝則の『寡黙な麻雀王者』