一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

福島第一原発事故の後始末の見直しを!

 柏崎刈羽原発でテロ対策を放置していた問題を重く見て、原子力規制委員会は3月25日、東京電力ホールディングスに再稼働に必要な核燃料の装塡などを禁じる是正措置命令を出す方針を決めた。だが、東電と言えば、世界最悪レベルの原子力事故となった2011年の福島第一原発の後始末も喫緊の課題だ。
 福島第一では、国と東電が10年前に最長40年で完了すると公約した廃炉プロジェクトが進行中だ。が、怪しいのは技術面だけではない。国は当初、廃炉、除染、賠償、中間貯蔵の4費用を合計6兆円と見積もったが、2013年に11兆円、2016年に21.5兆円と膨張してきた。民間シンクタンクには最大80兆円に達するとの試算もある。
 仮に政府の見積り通り21.5兆円で賄えるとしても、返済原資が心許ない。国有化した東電の政府保有株の売却益で4兆円を確保するとしてるが、これには3月26日の終値で377円の東電の株価が4倍近い1500円に急騰する必要がある。夢のような話なのだ。
 時計の針を戻せるなら、東電は破たん処理すべきだ。次善の策は、柏崎刈羽原発の再稼働で、自力で安全確保できない東電は設備保有者(大家)に限定、別の原子力事業者に設備の運転、管理、保守などを委ねることが出発点になる。可能な限り、英原子力廃止措置機関(NDA)のような仕組みが望ましい。NDAのように10数か所の原発を国営にするのが難しければ、東電とは別に原発運営会社を作るべきだ。安全かつCO2を排出しない原発は貴重なので、柏崎刈羽は有効利用しておカネを稼ぎ、それ以外の原発の廃炉費用に充てるのである。
 原発運営会社は、中部、東北両電力に日本原子力発電と関西電力を加えたコンソーシアム(共同事業体)が適当だ。利益はコンソーシアム側が優先で、東電は送・配電のネットワークに経営の軸足を置いて生き残りを目指す。
 福島第一事故の処理は、国が責任を持つべきだ。改正前の原子力損害賠償法の「無限責任」規定を盾に東電に押し付けてきたが、国有化された時点で民間企業・東電は消滅、責任は大株主である国に移った。気候変動対策のため炭素税を導入、税収の一部を回すことも一案だ。歴代政権のような逃げ腰では駄目で、国民に負担への理解を得るために、首相の指導力が求められている。

2021年 3月29日

COLUMN

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