一般社団法人 グローカル政策研究所

阿部孝則の『寡黙な麻雀王者』

第30回連載

私がクライマックスリーグとOJSカップを連覇した2021年はお相手の汐宮あまねさんにとっても飛躍の年となります。
この頃から私たちは一緒に暮らし初めており2人にとっては新しいできごとばかりだったように思います。

RMUには女流リーグがありそれをティアラリーグと呼んでいます。
現在はRMUのリーグ戦を令昭位戦と改名した時に女流令昭位と改名されています。
RMUも長きに渡り女流選手の人員が一定数に到達しなかったため女流リーグの開催をすることが出来ませんでした。
しかし2015年にめでたく女流リーグを開催するに至っています。
それから数年の歳月が流れ女流選手は40名ほどになっておりAリーグ、Bリーグの2クラス制で開催されるまでになっていました。
汐宮さんは2020年にRMUに入会しています。
そしてデビューの年のティアラBリーグで好成績を納めAリーグに昇級しています。
ティアラAリーグは全5節、各自20半荘行い成績上位5名がティアラクライマックス(決勝戦)に進出出来ます。
ティアラクライマックスではそれまでの成績はリセットされ5人打ちで各自4半荘行い成績下位1名が敗退となります。
残った4名で1半荘+新決勝を行いその年のティアラリーグ優勝者が決定します。
汐宮さんとの出会いはOJSカップを通じそこから勉強会セットをするようになってからでした。
勉強会セットは定期的に行われており、まだ麻雀を始めて間もない汐宮さんは貪欲に色々なことを吸収しようとしていました。
2人で暮らすようになってからも手積み用の麻雀卓と麻雀牌を用意しその勉強会は続けられていました。
対局を控えた週などには家で特訓がはじまります。
1人麻雀や実践形式の麻雀を再現する中で手順や思考のチェックをしたり、疑問点の解決をしたりといったことを行っていました。
その甲斐あってかティアラAリーグ第4節まで上位5人に残る可能性も充分残る健闘を見せていました。
この日はティアラAリーグ第5節に向けてより具体的な指導と特訓が行われていました。

汐宮さんが決勝に進むためには少なくとも+50p以上が必要で尚且つ同卓のライバルとなる初音舞さんをポイントで上回る必要があります。
これは口で言うのは簡単ですが普通よりもかなり厳しい条件です。
といのも標的となる初音舞さんは競技プロ歴も長く、なんと言っても第1回中国麻雀世界大会の優勝者で初代世界チャンピオンという愛称で呼ばれているほどの実力の持ち主でした。

しかし直接対決ですから汐宮さんにもチャンスはあります。
ティアラAリーグ第5節当日。
私はこの日ティアラリーグの立会人を任されていました。

家を出てから2人で会場に向かう電車の中で今日のアドバイスを一通り確認し最後にとにかく悔いの残らないように思い切り闘ってこいと伝えます。
しかし相手は実績と経験豊富なベテラン選手です。
半荘4回では初音さんも付け入る隙は与えてくれない、まあ厳しいだろうと私も思っていました。
しかしその日汐宮さんは調子がよく一方の初音さんはかなりの不調のようでした。
そして最終戦を前に汐宮さんはあと少しで逆転できるところまで初音さんを追い詰めていました。
最終戦は着順が上のほうがティアラクライマックスに進出となります。

ここまでその日の状態が好調と不調にはっきりと別れてしまうとキャリアや経験の差は一切関係なくなってしまいます。
麻雀においての勢いとか流れとか因果関係と言われるものは時に無慈悲で残酷なほどの恐ろしさを持っていることを私は今までに嫌というほど経験しています。
つい1年ちょっと前に麻雀を始めこたばかりの新人選手が今まさにベテラン選手を喰おうとしています。
私は立会人という立場であるにも関わらずこの卓から目が離せなくなっていました。
そして最終戦の着順勝負を制したのは汐宮さんでした。
土壇場での大逆転でティアラクライマックスの大舞台に2年目の新人が挑むことになります。
ティアラクライマックスは年明けに放送対局で行われます。
この日から決勝当日まではまだ日があります。
私たちは更に特訓に力を入れていくのでした。

当日私はスタジオで応援する事もできましたが、自宅で応援することにします。
試合が始まりますが落ち着いて見れたものではありません。
しかし汐宮さんはやはり経験の少なさから細かいミスは犯すもののかなり健闘しています。
私には出来ない選択などもあり感心させられる場面もあります。
一進一退の攻防が繰り返される中汐宮さんも必死にトータルトップに食らいついています。
そして敗退者1人が決定し汐宮さんは4人に残ります。
そして最終6回戦でトップをとりトータルトップの京杜なおさんに肉薄します。
その差はわずか12pです。
残る新決勝で12000点以上をアガるか6400点以上を京杜さんから直撃すれば汐宮さんの優勝となります。
新決勝その1
新決勝は東場や南場といった概念がなく積み場もありません。
設定は常に東1局となるため、その1、その2のような呼び方をします。
まず汐宮さんが軽く2600点をアガリで親番をもってきます。
新決勝ではアガッた人が次局の親になります。
今のアガリにより汐宮さんは2600オール以上のツモアガリか5800点以上の直撃で優勝です。
新決勝その2
親番を迎えた汐宮さんの配牌がかなりまとまっています。
ドラもあり早く高いて仕上がりそうです。
そしてわずか数巡でダマテンの12000点をテンパイします。
マチは山にも充分残っておりツモアガリもあります。
そして数巡後京杜さんの河に汐宮さんのアタリ牌が置かれます。
『ロン!12000』
僅かながらの緊張の中しかしハッキリとした発声で申告を終えると長かったティアラクライマックスがフィナーレを迎えることになります。
放送終了後に汐宮さんから嬉しそうな報告を受けます。
こんなことならやはり現地に行っておくべきだったと少し後悔しながらも家で祝杯をあげながら帰りを待つことにします。
お疲れ様!よく頑張ったね!おめでとう!

第31回連載へ続く...

COLUMN

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